私はどっちでもいいです。

今回の表現は、おかしな英語の間違い探しではなく、ニュアンスの違いについてのウンチクである。

例えば、日本語で次のような会話があったとする。

「窓は開けておこうか、それとも閉めようか?」
「私はどっちでもいいです」

このときの、「どっちでもいいです」である。

実は、英語にはこの表現に該当する言い回しが数多く存在する。したがって、それらを利用するにあたっては、ニュアンスの違いだけにこだわればよい。

一番失礼な言い方から、丁寧な言い方まで順を追って並べてみた。

✖ I don’t care.

「そんなこと、どっちだっていいよ」

△ Whatever you want.

「いいから、好きなようにしてよ」

△ It doesn’t matter.

「そんなの、どっちだって一緒だよ」

◯ Whichever is okay with me.

「私はどっちでもいいですけど」

◎ Either is fine with me.

「私はどっちでも構いません」

◎ I don’t mind either way.

「私はどちらでも結構です」

並べ方に好みはあると思うが、だいだいこんなところになるはずだ。

これにて一件落着!

私と一緒に映画に行きませんか?

女性をデートに誘うときの、ひと昔前の(私が若かりし頃の)決まり文句だ。今は流行(はや)らない。

まずは直訳してみる。

✖️ Aren’t you going to the movies with me?

この文章は逆翻訳すると、「私と一緒には映画に行かないの?」、つまり、「私と一緒には、映画に行かないっていうのね?」といった感じのニュアンスで、脅しとも受け取られかねない表現になってしまう。

かりに、次のように動詞の原形に置き換えたとしても、ニュアンスはほぼ変わらない。

✖️ Don’t you go to the movies with me?

じゃあ、ということで人を物事に誘うときのお決まりの文句に変えてみる。学校英語でも習うはずだ。

△ Why don’t we go to the movies together?

あるいは、下記のような表現でもよい。

△ Why not go to the movies together?

一応これでも大丈夫なのではあるが、これらが持つニュアンスは、すでに知り合いとなっているような間柄において、「あのさ、一緒に映画に行くってのはどう?」っていうくらいの感じで、あまりにも馴れ馴れしい。

そこで、普段、アメリカン人は何と言っているのかを調べてみた。

まずは、カジュアルな表現からである。

◎ Do you want to go to the movies with me?

※発音は「Do you wanna go to the movies with me?」

直訳すると、「私と一緒に映画に行きたい?」と、まさに単刀直入に相手の意思を尋ねている表現になってしまうのであるが、実は英語ではこのニュアンスが、「私と一緒に映画に行かない?」となるのである。実に不思議ではあるが、それが事実だ。

ちなみに、丁寧に言うと次のようになる。

◎ Would you like to go to the movies with me?

日本語の直訳は、「私と一緒に映画に行きたいですか?」となるのであるが、英語のニュアンスは、「私と一緒に映画に行きませんか?」となるのである。

もともと、日本語の原文も「行きませんか?」となっており、アメリカン人からすれば、「日本人はなんで最初から否定疑問文で尋ねてくるの?はなから私が断ると決めつけているのね?」と、疑いの的となるのである(笑)。

これにて一件落着!

痒いところはありませんか?

床屋さんや美容院でシャンプーしてもらうときによく耳にする表現だ。

例によって、まずは直訳してみる。

△ Is there anywhere that itches?

アメリカ人に聞いてみると、「意味はまあ通じるけど、なんか変な英語だね」ということになる。

そこで、次のように変えてみる。

✖️ Does anywhere itch?

日本語にすると、「どこか痒いですか?」である。

ところが、これだとなおさら「おかしな英語だ!」と言われてしまう。つまり、ここで言う「どこか」が身体の一部なのではなく、「道路」とか「建物」とかの場所のイメージになってしまうからだ。

ではと言うことで、次のように変更してみる。

◯ Do you itch anywhere?

「あなたは、どこか痒いですか?」である。これならなんとか合格点が取れそうだ。アメリカ人に聞いてみても、「まあ、これならいいかな」っていう感じだ。

しかしながら、彼らが実際に使っている表現はとなると、次のようなフレーズなのだ。

◎ Does it itch anywhere?

直訳すると、「どこか痒いですか?」であるが、Itを主語に持ってくることによって、前述のような「道路」や「建物」などの印象は除外できるのだ。

日本語のニュアンスとしても、まさに「痒いところはありませんか?」となって、痒い所に手が届く言い回しとなる(笑)。

これにて一件落着!

あなたは何をしている時が一番楽しいですか?

良く耳にする質問ではあるが、これを英語にしようとすると結構、難しい。

まずは直訳してみる。

✖ What you’re doing makes you enjoy the most?

逆翻訳すると、「何をしていることがあなたを一番楽しませるか?」という意味合いになるのであるが、アメリカ人に確認するとトンチンカンな表現だと言われてしまう。

じゃあ「何をしていること」を「何をしている時」に置き換えるにはどうしたらいいのかと考えると、ここでハタと悩んでしまう。

しかたがないので、次のように直してみる。

△ What makes you enjoy the most when you’re doing something?

「何かをしているとき、何があなたを一番楽しませるか?」となる。翻訳ソフトなどに訳させると、このような置き換えによく出会う。しかし、これでは納得が行かない。

ということで次のように変更してみる。

〇 Doing what makes you enjoy the most?

つまり、「何をすることがあなたを一番楽しませるか?」という意味となり、先頭の誤訳に比べて、かなり文法的にも進んだ形となる。これで、だんだん本筋に近づいてきた。

そこで、アメリカ人が普段使っている表現を探してみると、次のようになることが分かった。

◎ What do you enjoy doing the most?

直訳すると、「あなたは何をするのが一番楽しいですか?」となって、原文の「あなたは何をしている時が一番楽しいですか?」に最も近いニュアンスとなる。

これにて一件落着!

転ぶといけないから、走らないほうがいいよ。

まずは直訳してみる。

✖ It’s not good if you fall, so you had better not run.

これは逆翻訳してみると、「転ぶとよくないから、走ったら承知しないからね」とおかしな日本語になる。

つまり、文章の前半も後半もなんとなくおかしい。

とくに後半の「had better」は学校英語では「~したほうがいい」と習うのであるが、実際のニュアンスはどうかというと、「~しないと承知しないからね」というくらいの命令口調なのである。

あと、「転ぶといけないから」は、「転ぶかもしれないから」という表現に置き換える。

そこで次のように変えてみる。

〇 You might as well not run because you might fall.

逆翻訳すると、「転ぶかもしれないから、走らないほうがいいよ」となる。まあまあの合格点だ。アメリカ人に聞いても、「それでいいんじゃない」となる。

ちなみに、下記の表現でもよい。

〇 You shouldn’t run because you might fall.

「転ぶかもしれないから、走るべきじゃないね」といった感じだ。

ところが、実際にアメリカ人が使っている表現はどうかというと、次の通りだ。

◎ You don’t want to run because you might fall.

「転ぶかもしれないから、走りたくないよね」である。おかしな日本語だ。

ところが、これがまさに日本語のニュアンスとしては、「転ぶといけないから、走らないほうがいいよ」となるのである。

これにて一件落着!

気に入った!

「どう、気に入ってくれた?」、「うん、気に入った!」というときのやり取りである。

直訳すると、次のようになる。

✖️ I liked it!

つまり、日本語の「気に入った」が過去形であるからして、英語も過去形になってしまうという理屈だ。

ところがアメリカ人に向かって、この言い方をすると、「あそう、前は気に入ってたけど、今はそうじゃないってことなのね」ということでソッポを向かれてしまう。

つまり、過去には気に入っていたけど、今はビミョ~てな意味合いになってしまうのだ。

じゃあ、どうしたらいいのってアメリカ人に聞くと、誰もが現在形のままでいいと言う。

つまり、こうだ。

◎ I like it!

日本語に直訳すると「気に入っている!」となるのだが、英語ではこれが「気に入った!」のニュアンスとなるのだ。

これにて一件落着!

食べ過ぎて苦しい。

まずは直訳してみる。

✖ I ate so much that I’m suffering.

so~thatの構文はこれでいいのだが、sufferingとなると、お腹いっぱいの幸福感どころの騒ぎではないくらいの苦痛なのである。

じゃあ、何て言ったらいいのとアメリカ人に聞くと、「食べ過ぎて動けない」なんてどう?と聞かれる。

〇 I ate so much that I can’t move.

しかしながら、原文のニュアンスとしては、「動けない」よりは、もう一段苦しみを表現したいところだ。

そんな感じの表現ないの?と聞くと、じゃあこれはと言われる。

〇 I ate so much that it hurts.

「食べ過ぎて痛みがある」というような感じだ。

ここでいう日本語の「苦しい」は、「痛みがある」とはちょっとニュアンスが違うなあ、と思いながらいろいろ考えを巡らせてみると、あったあった、いい表現があった。

◎ I ate so much that I’m not feeling very well.

「食べ過ぎて、ちょっと具合が悪い」というくらいの感じだ。これだね。

これにて一件落着!

そう言うと思った。

まずはこれを直訳してみる。

✖ I thought you say so.

しかしながら、これは「thought」と「say」の時制が一致していないのでアウト!受験英語の文法ではあるが、アメリカ人から見ても、外れた印象を受ける。

では、時制を一致させて、次のようにしてみる。

△ I thought you said so.

ところがやっぱりアメリカ人からすると、これでは、「意味は何とか通じるが、なんか変な英語」という印象らしい。

ではということで、wouldを用いて、willの過去形でありながら、仮定法過去のイメージにしてみる。「そう言うだろうと思った」というニュアンスだ。

◯ I thought you’d say so.

アメリカ人からは、「これならいいね」という評価が下るのだが、筆者はまだ納得できない。

ということで、しつこく調べてみると、下記の表現がバッチリのニュアンスであることが分かった。

◎ I knew you’d say so.

日本語に直訳すると、「そう言うだろうと知っていた」という感じである。

これにて一件落着!